朝食

 朝食を食べようと思い、鳥が歌う朝の中、階段を降りる。誰もいない家の中を一人。リビングに向かい、台所へ。白い古びた冷蔵庫。かれこれ現役20年を迎える冷蔵庫。子供の頃から変わらない重さの扉を開けて中を見る。トーストが二枚、袋に入ったソーセージ。卵が二人、身体を擦り合わせている。とっとと二人には別れてもらい、一つ卵を取り出す。二つ使おうと思ったが、夕飯に使おうと思いやめておく。ソーセージと食パンを二枚、彼らも冷蔵庫から取り出す。食パン二枚はトースターへ。時間は二分ほど。それ以上焼けば真っ黒焦げ。ゴミ箱行きは避けたい。トースターの中にトーストを放り込む、タイマーをかける。次はお鍋。お鍋に水を満たし、火にかけて沸騰を待つ。ソーセージは焼くよりも茹でるほうが好きだ。焼いてしまうとどうにも焦げ臭く、また脂が飛んでしまう。庭でファミリーと仲良くBBQならば、焼くほうがもっぱらいいが、今は朝。静かな朝。朝は静かに過ごしたい。
 水が茹で上がると同時に、トーストが焼ける音が響く。トースターの入り口を開けて、放熱する。中に置いておけば真っ黒になってしまうからだ。茹で上がった鍋にソーセージを三つほど入れて、残ったものは冷蔵庫に返す。グツグツとソーセージは茹でられていく。それをじっと、魚が泳ぐ水槽を眺めるように見ていたいが、一人恋人と別れた卵を放置するのは可哀想なので、フライパンを取り出す。油を入れる前にしっかりと熱を加える。ホワホワと熱気が頬を撫でる。食欲を呼ぶ熱気だ。お腹も鳴りだし始める。油を入れて卵の殻を破り、彼を外界に飛び出す。透明な白身と黄身がフライパンの上で踊り始める。一人、氷上を滑るように。ボーと眺めていると、しばらくすれば固まり、彼はダンスをやめてしまう。残念と思いつつ、銀色のフライ返しで彼の舞台を移す。
 小麦の、柔らかい舞台に。
 そこに、ソーセージというお供を加えて。
 トースト二枚、挟んだ中には目玉焼きとソーセージ。
 皿を持って、リビングへ。
 窓の外では相変わらず、鳥が歌っている。