雲の大陸

 橋の上、車が行き交う中、僕は一人、手すりから身を乗り出しそうな格好で、空にできた大陸を見る。昼間はいなかった雲の大陸。夕焼けを背に、僕らの街にやってくる。明日の夜明け、もしくは夜中にはその大陸は知らないところへ行っているだろう。もし、あの大陸に人が、生き物が、生命を宿す意識体がいたとすれば、この地上に足をつけ、離れることができない僕らを見てどう思うだろうか?嘲笑うだろうか?それとも哀れみに思うだろうか?それとも友好的な関係を結ぶだろうか?
 21世紀になって二十年余り。僕ら地上に住まう者と、雲の大陸に住まう者は一度たりともあいコンタクトをしたことはない。
 口を交わすこともなければ、お互いの視線を交わすことはない。地上に住まう僕らも国が違えば会うことはない。雲の大陸に住まう者とは恐らく分かり合えないだろう。
「……帰ろっか」
 手すりから身体を離して、僕は家に向かう。
 橋の上、一人夕焼けの中。
 もう一度、雲の大陸を見る。
 少しずつ、位置を変える大陸。
 僕はどこか希望と失望を交えて見つめて、そこを離れた。