創作

青く輝いて

午後5時。奇跡的に仕事が終わり、帰りの電車に乗り込む。金曜日ということもあり、いつもより帰りの電車は混んでいる。見知った顔もいれば知らない顔も。知らない人は自分と同じく、奇跡的に仕事が早く終わったのだろう。 何人かは小声で談笑している。自分…

短編小説 海が好きだ

幼いころ、私は海で溺れかけ、あの世に行きかけたことがある。 波が押し寄せて、私の体を岩に打ち付けた。何度も何度も私を打ち付け、私の体に岩に付いていた貝が突き刺さる。しばらくすると波は止んで、私は沖の方に流された。子供と大人の泳ぐ場所を分ける…

短編小説 カッコウはもういない

大卒で会社に就職し、一か月が経った頃だ。どこからかやってきたカッコーの鳴き声を聴きながら、趣味の一つである読書の世界を旅していた時、自分の部屋のインターホンが鳴った。無機質で、ラッパのような高さはなく、心躍らない機械的な音。読書の世界から…

短編小説 大人になりたい僕

朝は混む。どこもそうだ。少し時間をずらしても、電車もバスも鮨詰めだ。深海にいるような息苦しさ。辛うじて、息はできていても生きた心地はしない。それがわかっているのに、僕らは生きていくために、その中に身を任せなければならない。 大人に早くなりた…

短編小説  銀色の世界で自を知る

雨が降れば音が鳴る。しかし、雪は違う。気配もなく、気づいた頃には降っている。 会社を出て、夜空を見上げていると白い結晶がゆっくりと降ってきた。雨ならきっと気づいただろう。自分の座る椅子から窓の外を見て。 「雪か」 今起こっている現象を確かめる…

東京一人旅

一人旅が好きだ。誰にも干渉されずに、ただ当てもなくぶらつく。歩いた先に美味そうな店があれば意気揚々……若干の臆病さを抱えながら店に入る。当たり外れはある。グルメマップなんか見ないし、評判も知らない。ただただ自分の直感を信じて入るのだ。 観光名…